1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
本件は、発明の名称を「画像表示方法および画像表示用プログラム」とする特許権(特許第5475856号。以下「本件特許権」)の元特許権者である控訴人株式会社サピエンス及び現特許権者である控訴人プラグインフリー・パテント・ホールディング株式会社が、被控訴人(LINEヤフー株式会社)の配信するHTML/JavaScriptのソースプログラムおよび地図画像データ等(被告地図プログラム)、並びにWebブラウザに地図を表示させる方法(被告地図表示方法)が本件特許の技術的範囲(本件発明1、2及び4)に属し、その配信が直接侵害又は間接侵害(特許法101条4号)を構成すると主張して、不当利得返還請求(一部請求)を求めた事案の控訴審である。
原審(東京地裁)が、被告地図表示方法は本件発明の構成要件を充足しないとして控訴人らの請求を棄却したため、控訴人らがこれを不服として控訴した。
2. 判決の主文
1. 本件控訴を棄却する。
2. 控訴費用は控訴人らの負担とする。
3. 主な争点
- 争点1: 被告地図表示方法の本件発明1及び2の構成要件充足性(「各枠要素の原点の座標をそれぞれ演算」の解釈及び充足性)
- 争点2: 被告地図プログラムの本件発明4の構成要件4Aの充足性
- 争点3: 被告地図プログラムの配信による本件特許権の間接侵害の成否(特許法101条4号)
- 争点4: 原審における弁論再開拒否等の手続的違法(審理不尽・裁量権逸脱)の有無
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
知的財産高等裁判所は、控訴人らの請求をいずれも理由がないとして控訴を棄却した。判断の具体的内容は以下のとおりである。
(1) 被告地図表示方法の本件発明1及び2の構成要件充足性(争点1)
本件発明1及び2の構成要件(1C, 1E, 1F, 2C, 2E, 2F)の「各枠要素の原点の(移動すべき)座標を(それぞれ)演算」との規定は、文字どおり各枠要素の原点の座標自体を演算することを意味する。
これをWebブラウザ上の処理にあてはめると、分割画像の移動において、他の要素による座標系を変更する演算ではなく、img要素(枠要素)自体の座標である「left, top」の値を演算することを意味すると解される。この解釈はクレーム文言に従ったものであり、特許法70条に反するものでも、最高裁判決(リパーゼ事件)が禁じる文言外限定を行うものでもない。
被告地図表示方法においては、ユーザが画面をスクロールした際、親要素であるdiv要素の「left, top」の値は変更されるものの、子要素であるimg要素はdiv要素と一体的に移動するため、img要素自体の「left, top」の値は一切変更されない。したがって、Webブラウザにより各枠要素の原点の座標が「それぞれ」演算・決定されていると認めることはできない。
(2) 本件発明4の構成要件4Aの充足性及び間接侵害の成否(争点2・3)
本件発明4の構成要件4Aは、本件発明1〜3のいずれかに記載の画像表示方法を実行させるプログラムであることを要件とするところ、被告地図表示方法は本件発明1及び2の技術的範囲に属しない。したがって、被告地図プログラムも本件発明4の構成要件4Aを充足しない。
同様に、対象方法が特許権の技術的範囲に属しない以上、被告地図プログラムの配信が「専らその方法の使用に用いる物」(特許法101条4号)の譲渡等に該当することもなく、間接侵害も成立しない。
(3) 原審の手続的違法について(争点4)
原審における審理経過に照らし手続的瑕疵は認められない。また、控訴人らが原審で取り調べられなかったと主張する新証拠についても、当審(知財高裁)において全て取り調べた上で判決の基礎としているため、審理不尽等の不服理由は採用できない。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
- 文言主義に基づく厳密なクレーム解釈の徹底
「~の座標をそれぞれ演算する」というクレーム表現に対し、DOM構造上の親要素(divタグ)の座標系を変更することで子要素(imgタグ)を一体移動させる技術構造は、クレーム文言通りの「各枠要素(子要素)自体の座標演算」を行っていないとして充足性が否定された。ソフトウェア・Web関連特許におけるデータ構造・処理対象の厳密な文言解釈の実務を示す例である。 - 「文言外限定」主張に対する裁判所のスタンス
特許権者側は「直接演算」という概念を持ち出すことがリパーゼ最高裁判決違反(文言外限定)であると主張したが、裁判所はクレーム文言通りの当然の解釈の範囲内であると判示し、クレーム文言の自然な解釈と文言外限定の切り分けを明確に示した。 - 原審における新証拠採用拒否と控訴審での救済(手続面)
原審における弁論再開拒否等の手続的違法性主張に対し、控訴審で当該証拠を取り調べて判断の基礎とすることで、原審の手続的瑕疵の有無にかかわらず審理不尽の論点を解消するという控訴審実務の標準的アプローチが採られている。
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