【知財高裁 / 2026年07月29日】令和7年(行ケ)第10077号 - 審決取消請求事件(電池の端子・集電構造に関する特許無効審判不成立審決の取消請求棄却事件)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、特許権者である被告(株式会社GSユアサ)の有する発明の名称を「電池」とする特許権(特許第5713127号。以下「本件特許」)に対し、原告(エリーパワー株式会社)が特許無効審判(無効2023-800072号)を請求したところ、特許庁が訂正を認めた上で審判請求を不成立(特許維持)とした審決(以下「本件審決」)の取消しを求めた審決取消訴訟である。

本件特許権は令和4年5月27日に存続期間満了により消滅している。また、被告が原告に対し提起していた別件の損害賠償請求訴訟においては、対象製品(蓄電システム13品目・電池パック1品目)について原告の特許権侵害及び無効理由の不成立を認め、被告の請求を一部認容する判決が確定している。 原告は、甲1発明に基づく新規性欠如(無効理由1)、甲1~甲3発明および周知技術に基づく進歩性欠如(無効理由2~4)、並びにサポート要件違反(無効理由6)等を理由に本件審決の取消しを主張した。

2. 判決の主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

3. 主な争点

  • 争点0(職権判断事項): 存続期間満了・別件訴訟確定後における訴えの利益の有無
  • 争点1(取消事由1): 甲1発明に基づく本件発明1及び5の新規性欠如(「端子接続部材」の解釈および相当性)
  • 争点2(取消事由2~4): 甲1~甲3発明および周知技術に基づく本件発明の進歩性欠如(周知技術適用の動機付けおよび課題共通性)
  • 争点3(取消事由5): サポート要件違反の有無(特許法36条6項1号)

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 訴えの利益について(肯定)

特許権の存続期間満了後であっても、特許権侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている限り、特許無効審判請求及びその審決取消訴訟の利益は消滅しない。訴えの利益が消滅したというためには、「原告に対し、損害賠償等の請求や刑事罰が科される可能性が全くなくなったと認められる特段の事情」が必要である(大知財高判平成30年4月13日参照)。
本件では、別件訴訟で認容判決が確定しているものの、対象製品以外の製品について存続期間中に原告が製造販売していた可能性を否定できないため、特段の事情は認められず、訴えの利益を認めた。

(2) 取消事由1(甲1発明に基づく新規性欠如)について(理由なし)

本件発明1の特許請求の範囲の文言上、「端子接続部材」は外部接続端子と集電接続板との「間に配置」され、双方に接続される構造を意味する。
これに対し、甲1発明における「ナット」は、円柱状端子部材(外部接続端子)を天板に固定するための部材であり、円柱状端子部材とL字板状のアングル部材(集電接続板)との間に配置されたものではない。したがって、甲1のナットは本件発明1の「端子接続部材」に当たらないとした審決の相違点認定に誤りはない。

(3) 取消事由2~4(進歩性欠如)について(理由なし)

原告は、鉛蓄電池における「貫通した極柱に導電部材を接続し外部ボルトを設ける構造」(本件構造)が周知技術であり、これが「外部端子への回転トルクによる内部破損防止」という課題(本件課題)の解決手段であるから、リチウムイオン電池等(甲1~甲3発明)に適用することは容易であると主張した。
裁判所は、鉛蓄電池において本件構造自体は周知であったと認めつつも、①本件構造が「本件課題の解決手段」として採用されていたと認めるに足りる証拠がないこと、②本件課題が二次電池全般に共通する課題であると認めるに足りないことから、当業者が甲1~甲3発明に本件構造を適用する動機付けを否定し、進歩性欠如の主張を退けた。

(4) 取消事由5(サポート要件違反)について(理由なし)

サポート要件適合性は、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書に記載された発明で当業者が課題を解決できると認識できる範囲(あるいは技術常識に照らし認識できる範囲)であるか否かにより判断される。
本件明細書には従来の非水電解質二次電池における作製困難性・溶着不良・作業性悪化(問題①~③)が記載されており、本件発明の課題は「作製を容易にすることができる電池の提供」と認められる。明細書中に構成と各問題との対応関係が明示的に記載されていなくとも、本件発明の具体的構成(本体部を中央方向に水平延伸、接続板部を突設して未塗工部外側面と接合等)と対比すれば、当業者は上記課題を解決できると実質的に認識し得るため、サポート要件を満たすと判断した。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 存続期間満了・侵害者敗訴確定後の訴えの利益
    別件の侵訴(損害賠償訴訟)で一部敗訴判決が確定し既判力が生じている場合であっても、「既判力の及ばない別製品についての権利行使の可能性」が理論上残存する限り、特許無効審判不成立審決に対する訴えの利益が否定されないことを実務上再確認した判例である。
  • 周知技術の適用による進歩性否定の主張・立証構造
    「ある構造(手段)が周知であること」のみをもって他分野・他発明への適用容易性を立証することは不十分であり、「その周知構造が特定の課題解決手段として周知であったこと」および「引用発明と周知技術との間で課題が共通していること(適用への動機付け)」まで厳格に立証・認定する必要がある点を示した。
  • サポート要件(課題解決可能性)の実質的解釈手法
    明細書内に「各発明特定事項がどの課題(問題点)をどのように解決するか」という明示的な文脈対比が記述されていない場合であっても、特許請求の範囲の具体的構成と明細書の課題を対比し、当業者が技術常識を踏まえて課題解決を理解できるかという観点から、柔軟・実質的にサポート要件適合性を認可している。

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