【知財高裁 / 2026年06月04日】令和7年(行ケ)第10113号 - 審決取消請求事件(自動運転制御装置に関する訂正審判の独立特許要件・進歩性判断)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、特許第6893602号(発明の名称:自動運転制御装置および自動運転制御方法等)の特許権者である原告(CASE特許株式会社)が、特許庁に対して請求した訂正審判(訂正2024-390093号)において、「本件審判の請求は、成り立たない」とされた審決(本件審決)の取消しを求めた審決取消訴訟である。
特許庁(被告)は、本件訂正後の請求項1、11及び12に係る発明(訂正発明1、11及び12)について、公知文献(甲1:EyeSight取扱説明書に記載された運転支援技術/引用発明1~3)および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、独立特許要件(特許法126条7項・29条2項)を満たさないと判断した。原告は、主引用発明からの動機付けの不存在および阻害要因の存在を主張して本件審決の取消しを求めた。

2. 判決の主文

1. 原告の請求を棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。

3. 主な争点

  • 争点1: 引用発明(運転支援技術)から訂正発明(自動運転制御)への構成適用に関する動機付けの有無
    (先進安全技術/ASVと自動運転技術の相違、および市販車取扱説明書という主引用例の性質に基づく動機付けの有無)
  • 争点2: 引用発明に対する側方センサー等の追加および制御適用における阻害要因の有無
    (前方認識のみを行う既存システムに対し、側方認識および車線変更・右左折・駐車制御等を適用することの技術的阻害要因の有無)

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

裁判所は、原告の主張をいずれも排斥し、本件審決に容易想到性(進歩性)の判断の誤りはないとして、原告の請求を棄却した。ロジックの要旨は以下の通りである。

1. 相違点に係る容易想到性および動機付けについて
引用発明は車両に搭載される運転支援技術に関するものであり、訂正発明は自動運転制御に関するものである。しかし、運転支援と自動運転とは、外界認識・判断・操作を運転者とシステムが分担する際における「分担の比重が異なるものにすぎない」
また、双方とも自動車の基本性能(走行・操舵・制動)を支援・自動化し、安心・安全で快適な運転環境を提供するという目的を共通にしている。さらに、本件優先日当時、ACCやレーンキープアシスト、車線変更システム等を組み合わせて複数または全ての操作を自動で行わせる技術は周知事項であった。
したがって、先進安全技術(ASV)に係る引用発明に対し、自動運転技術分野における周知技術(車線変更制御、右左折制御、駐車制御等)を適用する動機付けは一般に肯定される。

2. 市販製品の取扱説明書(甲1)を主引用例とすることについての見解
原告は、引用発明が現実に販売された自動車の取扱説明書であり技術的最適化が極限まで施されているため変更・追加の動機付けがない旨主張した。
これに対し裁判所は、引用発明が製品として完成されている(市販されている)からといって、一般に当業者が当該引用発明の機能の一部を変更又は追加する動機付けがないということにはならないと判示し、原告の主張を退けた。

3. 阻害要因の有無について
原告は、引用発明が前方の周囲情報のみを取得するシステムであるため、側方認識センサーの追加およびそれに基づく車線変更・右左折・駐車制御の適用には阻害要因があると主張した。
裁判所は、前方の周囲情報のみを取得しているという引用発明の構成自体は、側方を認識するセンサーを新たに追加することの阻害要因(技術的妨害・不都合)とはならないと判示。当業者は、周知技術である車線変更等の制御を実現するに際し、周知の側方センサーを適宜設けることができたと認めるのが相当であるとした。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 運転支援技術(ASV)と自動運転技術の技術的連続性の確認
    実務上、「運転支援(Level 1-2)」と「自動運転(Level 3以上等)」を定性的に異なる技術分野と主張して動機付けを否定することは困難であり、両者は「ドライバーとシステムの役割分担の比重の差」に過ぎないと位置付けられた。運転支援技術を主引用例として自動運転特許の進歩性を否定する拒絶理由・無効理由の論理構成が強く支持されたといえる。
  • 市販品・完成品(取扱説明書等)を主引用例とする場合の動機付けの評価
    「市販車として完成度が高く最適化されているため、構成の改変や機能追加の動機付けがない」という実務で頻出する反論パターンに対し、裁判所は明確にこれを否定した。製品としての完成度は、技術的思想としての改良・改変の容易性を阻害する理由にはならないという既存判例の文脈を再確認するものである。
  • 「構成の不備・未備」と「阻害要因」の区別
    主引用発明に特定の要素(本件では側方センサー)が存在しないこと(構成の未備)は、それ自体が当該要素を追加することを妨げる「阻害要因(技術的矛盾や性能低下等)」には当たらない。周知技術の付加によって容易に補い得る範囲内であるか否かという観点から論理的に排斥された点が実務上留意される。

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