【大阪地裁 / 2026年05月14日】令和7年(ワ)第2859号 - 特許権侵害差止等請求事件(ダニ捕獲シートに関する特許権侵害差止等請求事件)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、発明の名称を「3次元ダニ捕獲体」とする特許第7002839号の持分2分の1を有する原告(株式会社オーラルファッション)が、被告(株式会社SHIMADA)に対し、被告の製造・販売する不織布を用いた「業務用ダニ捕獲シート」(被告製品)が本件特許権(本件発明1および4)を侵害(文言侵害または均等侵害)していると主張して、特許法100条1項および2項に基づく被告製品の製造・譲渡等の差止めおよび廃棄並びに民法709条に基づく損害賠償金(4,400万円)等の支払を求めた事案である。

2. 判決の主文

1. 原告の請求をいずれも棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。

3. 主な争点

  • 争点1-1: 被告製品の「不織布」構成が本件発明1の「スポンジ状の連続気泡構造体」(構成要件B~E)を充足するか(文言侵害の有無)
  • 争点2-1: 被告製品の「不織布」構成が本件発明4の「メッシュ状の連続格子構造体」(構成要件H~K)を充足するか(文言侵害の有無)
  • 争点3: 「スポンジ状の連続気泡構造体」または「メッシュ状の連続格子構造体」を「不織布」に置換した構成について均等侵害が成立するか(均等第2要件・第3要件)
  • 争点4: 本件特許の無効理由の有無(明確性要件違反、乙8・乙13・乙16等を主引用例とする進歩性欠如)(未判断)
  • 争点5: 損害の有無および額(未判断)

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

裁判所は、被告製品が構成要件B~EおよびH~Kを文言上充足せず、均等侵害も成立しないとして、特許無効等の点について判断するまでもなく原告の請求を請求棄却とした。

(1)文言侵害の不成立(構成要件充足性の否定)

  • 「スポンジ状の連続気泡構造体」(本件発明1)について:
    「気泡」とは固体・液体中にあって気体を含み丸くなったものを意味する。「スポンジ状の連続気泡構造体の多孔質体」とは、一定の径を持つ気泡が連続する立体構造をもつ多孔質体を指す。被告製品の素材である「不織布」は、繊維が接着・絡合された3次元の繊維集合体であり繊維間に空隙を有するものの、固体間(繊維間)の空隙にすぎず「気泡」を備えた構成とは認められない。したがって不織布は「連続気泡構造体」に該当しない。
  • 「メッシュ状の連続格子構造体」(本件発明4)について:
    「格子構造(ラティス構造)」は枝状に分岐した格子を配置した立体構造であり、本件明細書の記載(【0053】)等に照らし、一定程度の規則性・周期性を持つ構造が想定される。「メッシュ状の連続格子構造体」とは、一定の径と規則性・周期性を持つ格子が連続する立体構造を指す。被告製品の不織布は、独立した繊維が複雑かつランダムに絡み合った構造であり、規則性や周期性が認められないため、「連続格子構造体」に該当しない。

(2)均等侵害の不成立(争点3)

  • 第2要件(置換可能性・同一の作用効果)の否定:
    本件各発明の作用効果は、300~3000μmの孔径・隙間を有する3次元構造体に粘着剤を含浸させることで、侵入したダニに対し3次元的にあらゆる方向から粘着捕捉を可能にし逃走を防ぐ点にある。被告製品において不織布に付着した粘着剤部分の厚さ(約115μm)は、イエダニ成虫の体長(300~500μm)の3分の1ないし4分の1程度にとどまり、「3次元的にあらゆる方向から粘着捕捉する」という本件各発明と同一の作用効果を奏しない。
  • 第3要件(置換容易性)の否定:
    「スポンジ状の連続気泡構造体」または「メッシュ状の連続格子構造体」を不織布に置換することが当業者にとって容易に認識・意図できたと認めるに足りる証拠はなく、また不織布において孔径(300~3000μm)を容易に調整可能かどうかも明らかではない。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 技術用語の辞書的・明細書的意義に基づく文言解釈の厳格適用:
    裁判所は「多孔質」である点では不織布と共通し得るとしても、「気泡」(泡構造)や「格子(ラティス構造における周期性・規則性)」といった構成の物理的特徴に着目し、繊維集合体にすぎない不織布との技術的差異を明確に区別して文言侵害を否定した。
  • 均等第2要件(同一の作用効果)における課題解決・物理的寸法の重視:
    均等論の判断において、特許発明の技術的思想(捕獲対象であるダニの体形サイズと3次元捕捉空間の深さ・厚みの関係)と被疑侵害者製品の実際の物理寸法(粘着剤含浸層の厚み)を対比し、数値的に課題解決の作用効果を奏し得ないとして同一作用効果(第2要件)を厳格に否定した実務上参考となる事例である。

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