【知的財産高等裁判所 / 2026年08月18日】令和7年(ネ)第10070号 - 特許権侵害差止等請求控訴事件(原判決取消・被控訴人の請求棄却)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、発明の名称を「ランプ」とする特許権(特許第6944719号[本件特許1]及び特許第7227646号[本件特許2])を有する被控訴人(第1審原告:株式会社ホタルクス)が、控訴人(第1審被告:細渕電球株式会社)による製品の製造、使用、販売等が本件各特許権を侵害すると主張して、特許法100条1項及び2項に基づき、控訴人製品の製造・使用・販売・販売の申出の差止め及び廃棄を求めた事案である。
原審(東京地方裁判所)は、控訴人製品が本件特許1の請求項1(本件発明1-1)の技術的範囲に属し、無効理由も認められないとして被控訴人の請求を認容したため、控訴人がこれを不服として控訴を提起した。

2. 判決の主文

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

3. 主な争点

  • 争点1(新無効主張の許否):控訴審において控訴人が新たに主張した無効の抗弁(乙9・乙10公報に基づく主張)が、審理を不当に遅延させるものとして却下(特許法104条の3第2項)されるべきか。
  • 争点2(進歩性の欠如・無効の抗弁):本件各発明(発明1-1、1-2、2-1、2-2)が、乙10公報(特開2015-69708号公報)記載の発明及び周知技術・副引例(乙12等)に基づいて当業者が容易に想到できたものか(特許法29条2項、同104条の3第1項)。
  • 争点3(訂正の再抗弁の成否):被控訴人による特許請求の範囲の訂正(「熱移送手段は、熱伝導素材で形成された熱伝導部材である」旨の限定付加)により、乙10発明に基づく進歩性欠如の無効理由が解消されるか。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 無効の抗弁の却下申立て(特許法104条の3第2項)について
控訴人が控訴審で新たに主張した乙9・乙10公報に基づく無効の抗弁は、原判決を踏まえ控訴理由書において提出されたものであることに照らし、審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものとは認められないとして、被控訴人の却下申立てを排斥した。

(2) 乙10発明に基づく本件各発明の進歩性欠如(特許法29条2項)

  • 本件発明1-1について: 乙10公報に記載された照明装置(乙10発明)と本件発明1-1を対比すると、①光透過性カバーの有無(相違点10-1)、②LEDが複数であるか(相違点10-2)、③筒状リフレクタの配置関係(相違点10-3)において相違する。
    • 相違点10-1:屋外・進入灯等に用いられる照明装置において風雨や塵埃進入を防止するために光透過性の前面カバー(乙12公報記載)を設けることは自明な課題・構成であり、容易想到である。乙10発明の開口は放熱上必須とまではいえず阻害要因はない。
    • 相違点10-2:同一技術分野である乙12公報に記載された「多数のLEDを実装したCOB型LED」を採用することは当業者が容易に想到し得た。
    • 相違点10-3:乙10発明のリフレクタも光照射側に配置される部分を含み実質的相違とはいえず、仮に相違するとしても乙12公報の反射鏡配置を適用することは容易想到である。
    また、本件発明1-1の効果も当業者が予測し得た範囲を出ないため、本件発明1-1は進歩性を欠く。
  • 本件発明1-2、2-1、2-2について:
    • 発明1-2、2-2(航空機着陸誘導閃光装置への用途):乙10公報自体に滑走路進入灯・閃光灯等への適用が開示されているため容易想到である。
    • 発明2-1(筐体に接続部を有する構成):配線接続のための接続部(コネクタ)を筐体に設ける構成は周知技術(乙5、乙14)であり、容易に適用可能である。

(3) 訂正の再抗弁(争点7)について
被控訴人は、構成要件として「前記熱移送手段は、熱伝導素材で形成された熱伝導部材である」を追加する訂正を主張したが、乙10発明に開示された「自励振動式ヒートパイプ」が熱伝導素材で形成された熱伝導部材であることは技術常識にすぎない。したがって、訂正後も相違点は解消されず、本件各訂正発明も進歩性を欠くため、訂正の再抗弁は理由がない。

(4) 結論
本件各発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるから、被控訴人は本件各特許権を行使することができない(特許法104条の3第1項)。原判決を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却する。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • 控訴審における新規公報に基づく無効の抗弁と104条の3第2項: 原審で認められなかった無効論に対し、控訴審で新たな主引例(乙9、乙10)を提出した場合でも、原判決の判断を踏まえて控訴理由書で速やかに提出されている限り、「審理を不当に遅延させる目的」とは認定されず、適法な防御方法として許容される実務傾向が維持されている。
  • 副引例の組み合わせにおける「動機付け・阻害要因」の主張の限界: 特許権者側は「主引例と副引例とで放熱構造の全体思想や課題が異なり、組み合わせに阻害要因がある」と主張したが、裁判所は「主引例に適用すべきなのは副引例の放熱機構そのものではなく、COB型LEDモジュールやカバー、リフレクタといった個別部品・配置構成である」と切り分けて判断し、阻害要因の主張を排斥した。部品単位の置換・転用における動機付け判断の実務的留意点を示している。
  • 技術常識・自明な文言の付加による訂正再抗弁の限界: 特許権者が無効理由を回避するために「熱伝導素材で形成された熱伝導部材」という上位概念的な限定を付加しても、引用例に開示された具体的部材(自励振動式ヒートパイプ)が技術常識上これに該当すると判断されれば相違点は解消せず、訂正による無効理由の解消(再抗弁)は認められない。無効回避のための訂正クレーム設計における実効性の検証が極めて重要であることを示している。

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