【知財高裁 / 2026年07月15日】令和7年(行ケ)第10028号 - 審決取消請求事件(越境ECに関する事前通関プログラム発明の発明該当性および進歩性)
1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
本件は、原告(アリババ株式会社)が、被告(株式会社BWB)の保有する特許第6047679号(発明の名称:「商取引システム、管理サーバおよびプログラム」)の請求項8に係る発明(以下「本件特許発明」)について、特許庁がなした無効審判請求不成立審決(無効2023-800082号)の取消しを求めた審決取消訴訟である。
【主要な事実経過】
- 2016年5月23日:被告が特許出願(特願2016-102587号)。同11月25日に特許権設定登録。
- 2023年12月20日:原告が本件特許の請求項8(プログラム発明)につき特許無効審判を請求。
- 2025年3月13日:特許庁が「本件審判の請求は、成り立たない」との審決(本件審決)。
- 2025年4月1日:原告が審決取消訴訟を提起。
【本件特許発明(請求項8)の要旨】
コンピュータに、①商品情報を含む登録要求を受信するステップ、②登録要求を通関認証装置に送信するステップ、③通関認証装置から関税情報を含む事前通関情報を取得するステップ、④商取引装置に対しサイト掲載可能となるよう事前通関情報を通知するステップ、を実行させるためのプログラム。
【原告の請求及び主張の骨子】
本件審決の取消しを求める。取消事由は①発明該当性判断の誤り(単なる人為的取決め・事務作業へのコンピュータ利用にすぎず特許法2条1項の「発明」に不該当)、②進歩性判断の誤り(甲3[特開2001-142986号公報]記載の発明と実質的相違がなく容易想到)である。
2. 判決の主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3. 主な争点
- 争点1: 発明該当性判断の当否(取消事由1)
本件特許発明(プログラム発明)において、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているか、それとも単なる人為的取決め・事務作業にコンピュータを利用したものにすぎず特許法2条1項の「発明」を否定されるべきか。 - 争点2: 進歩性判断の当否(取消事由2)
甲3発明と本件特許発明との相違点(通関認証装置との情報の送信・取得、事前通関情報の通知等)について、当業者の容易想到性を肯定すべきか、または両発明に実質的相違が存在しないといえるか。
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
(1) 取消事由1(発明該当性判断の誤り)について:【原告の主張棄却】
裁判所は、本件特許発明の特許請求の範囲および明細書の記載に基づき、以下の論理により特許法2条1項の「発明」該当性を認めた。
- 本件特許発明は、商品情報を含む登録要求の受信、通関認証装置への送信、事前通関情報の取得、商取引装置への通知という各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
- 「通関認証装置」および「事前通関情報」の意義は本件明細書において具体的に説明されている。
- 本件特許発明は、上記の構成を採用することにより、商品購入後の通関手続において通関条件を満たさない等の問題により物流が停滞するという従来技術の課題を解決し、「通関処理の円滑化」を実現するものである。
- したがって、本件特許発明はソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されていると認めることができ、「自然法則を利用した技術的思想の創作」(特許法2条1項)に該当する。
(2) 取消事由2(進歩性判断の誤り)について:【原告の主張棄却】
裁判所は、本件特許発明と甲3発明との相違点の存在および非容易想到性を認め、進歩性を肯認した。
- 審決が認定した相違点1〜4のうち、相違点1(登録要求である点)が容易想到であるとしても、原告は相違点2〜4の構成が容易想到であることについて何ら具体的な主張立証をしていない。
- 原告の「実質的相違が存在しない」との主張に対し、本件特許発明の「通関認証装置」は商品が事前通関に適合するか否かを認証し事前通関情報を生成する装置であるのに対し、甲3発明の「管轄区域データベース・サーバ」は通関等の情報を収集・格納・送信する単なるデータベースにすぎず、通関の認証機能を有しない。
- したがって、甲3発明は本件特許発明の「通関認証装置」および「事前通関情報」に相当する構成を有しておらず、少なくとも相違点3につき実質的相違が存在するため、審決の進歩性判断に誤りはない。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
- ソフトウェア・ビジネス関連発明における「発明該当性」の審理態様
通関手続や法令等の「人為的取決め」が背景にあるシステムであっても、特許請求の範囲の各ステップおよび明細書の課題・作用効果の記載から、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現され、技術的課題(物流停滞の防止・通関処理の円滑化)を解決していると整理できれば、特許法2条1項の発明該当性が堅固に維持されることを示した。 - 引用発明との「機能的相違」に基づく進歩性の確保
単なる「情報の格納・送信を行うデータベース」と「事前通関の適合性を確認・承認する認証装置」との概念的・機能的相違(認証機能の有無)を明確に区別し、これに基づく情報連携の構成に進歩性を認めた実務上有益な事例である。公知のEC・データベースシステムが存在する場合でも、特定の行政・認証インフラと連携する情報処理ロジックの非自明性を明確に主張・立証することの重要性が確認された。
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