【知財高裁 / 2026年07月15日】令和6年(ネ)第10081号 - 特許権侵害差止請求控訴事件(中国越境ECシステムとのデータ連携における構成要件D・Eの充足性が否定された事例)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、特許権者である控訴人(株式会社BWB)が、被控訴人(アリババ株式会社)に対し、被控訴人によるプログラム(以下「本件プログラム」)の電気通信回線を通じた提供の申出行為が控訴人の有する本件特許権を侵害すると主張して、特許法100条1項に基づき、当該プログラムの提供の申出の差止めを求めた事案である。

原審(東京地方裁判所)は、本件プログラムが少なくとも本件発明の構成要件D及びEを充足せず、本件発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴を提起した。

当審(控訴審)において、控訴人は、中国の越境EC通関制度(直送モデル及び保税区モデル)における二つの審査場面(①備案登録の場面、②保税核注リストによる申告の場面)において、本件プログラムと中国政府の貿易サービスプラットフォーム(「シングルウィンドウ」)等との間でデータ連携が行われていることを根拠に、構成要件DおよびEの充足性を主張した。

2. 判決の主文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

3. 主な争点

  • 争点1: 本件プログラムの構成要件D充足性(「通関認証装置」からの「関税に関する情報を含む事前通関情報」の取得の有無)
  • 争点2: 本件プログラムの構成要件E充足性(上記構成要件Dで取得された「事前通関情報」のECサーバ等への送信・利用の有無)

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

裁判所は、原審の判断を引用しつつ、当審における控訴人の追加主張(中国越境EC通関制度における実態)を検討した上で、本件プログラムは構成要件D及びEのいずれも充足しないと判示し、控訴人の請求を棄却した。

(1) 構成要件Dの充足性について

ア 備案登録の場面
控訴人は、シングルウィンドウが「通関認証装置」に該当し、HS CODE(商品の統計品目番号)を含むステータス情報を返送しているため構成要件Dを充足すると主張した。
しかし裁判所は、①シングルウィンドウが登録要求に係るHS CODEの審査を行った上で誤っていた場合に正しいHS CODEを返送していると認めるに足りる証拠はなく、本件プログラムのマニュアル等によれば菜鳥の業務提携先(民間事業者側)による審査結果が表示されている可能性があること、②仮に送信情報にHS CODEが含まれていたとしても、出品者が入力したHS CODEがそのまま返送されるにとどまるならば、本件発明の課題解決効果(通関処理の円滑化)を奏しないため、「通関認証装置から」事前通関情報を「取得する」と解することはできないと判示し、主張を退けた。

イ 保税核注リストによる申告の場面
控訴人は、保税核注リストに基づく申告結果としてHS CODEや保税倉庫等の情報が送信されているため構成要件Dを充足すると主張した。
しかし裁判所は、データ連携によりシングルウィンドウから返送されるデータは「①処理結果、②申告書番号、③統一番号、④詳細情報(申告失敗の理由等)」であり、HS CODE自体は返送されていないと認定した。また、「②申告書番号」および「③統一番号」は申告時に入力したHS CODE等と紐づいているに過ぎず、これらをもって「関税に関する情報を含む事前通関情報」を取得したとはいえないと判示し、主張を棄却した。

(2) 構成要件Eの充足性について

構成要件Eにいう「前記事前通関情報」とは、構成要件Dにおいて「通関認証装置から取得」されたものを指すところ、前記の通り構成要件Dにおける「事前通関情報の取得」が認められない以上、本件プログラムが構成要件Eを充足すると認めることはできないと結論付けた。
また、管理画面上の表示や注意書き(「出荷段階で商家が記載したHS関税コードの誤りにより…その結果および責任はすべて商家が負う」等の記載)に照らしても、表示されたHS CODEが通関認証装置における事前通関を経たものとは認められないと補足した。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

  • クレーム解釈と発明の作用効果の一体性:
    単に形式的なデータの送受信(入力値の単純折り返しや紐づけ用識別子の返送等)が存在するのみでは、「認証装置から情報を取得した」という構成要件を充足したとは認められず、明細書に記載された発明の課題解決・作用効果(本件では通関処理の円滑化)を実質的に奏するデータ取得が行われているか否かが厳しく吟味される。
  • 外国行政・公的システム(シングルウィンドウ等)を組み込んだソフトウェア特許の立証実務:
    海外の通関システムや公的インフラと連携するプログラムの特許権侵害訴訟においては、システム間で現実にやり取りされているデータAPIの仕様、返送されるパラメータの具体的性質(HS CODEそのものか、単なる申告番号か)、審査主体の判定ロジック等を証拠に基づき緻密に立証する必要があることを提示している。

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