【知財高裁 / 2026年06月17日】令和8年(ネ)第10002号 - ワインセラー及び霜取り制御方法に関する特許権侵害差止等請求控訴事件

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、「ワインセラー及び霜取り制御方法」に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する控訴人(原告・さくら製作所株式会社)が、被控訴人(被告・株式会社デバイスタイルマーケティング)に対し、被控訴人による被告製品の販売及び輸入等が本件特許権を侵害すると主張して、特許法100条1項・2項に基づく被告製品の販売禁止・廃棄、並びに民法709条に基づく不法行為損害賠償(控訴審での請求額:2,643,164円及び遅延損害金)を求めた控訴事件である。
原審(東京地裁)は、①被告製品の文言侵害(構成要件E3の充足性)、②均等侵害(第1要件)、③特許法101条1号および2号の間接侵害のいずれも否定し、控訴人の請求を棄却した。これを不服とした控訴人が控訴を提起し、当審において間接侵害に関する主張等を補充・追加した。

2. 判決の主文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

3. 主な争点

  • 争点1: 構成要件E3の充足性(文言侵害の成否)
    加温ヒーター停止後に「第2の温度より高い第3の温度に達した場合にコンプレッサーを再起動する」という技術的範囲の解釈および被告製品の該当性。
  • 争点2: 均等侵害の成否(第1要件:本質的部分の同一性)
    ヒーター停止後のタイムラグ(露滴下時間)の確保という技術的思想が被告製品において具現化されているか。
  • 争点3: 間接侵害の成否(特許法101条1号および2号)
    パラメータ設定の変更により特許発明の実施品に転化し得る製品について、他用途性の有無(1号)並びに特許権侵害に利用される現実的蓋然性及びその認識・認容の有無(2号)。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

(1) 争点1(構成要件E3の充足性)について

特許請求の範囲及び明細書の記載に照らし、構成要件E3における「第2の温度」及び「第3の温度」は所定の温度(固定された閾値)を指すと解すべきであり、単に「ヒーター停止時の温度に比してコンプレッサー再起動時の温度が高い」という結果のみをもって本要件を充足するものとはいえない。
当事者双方の実験結果によれば、被告製品ではヒーター停止とコンプレッサー再起動が同時に生じる場合や、再起動時の温度がまちまちである場合が存在し、特定の「第2の温度より高い第3の温度」に達したことを条件として再起動する制御構造を有しているとは認められないため、文言侵害は成立しない。

(2) 争点2(均等侵害の成否)について

本件明細書の記載から「加温ヒーター停止後にある程度時間が経過した後にコンプレッサーを再起動させること」を本件発明の本質的部分と解する余地があるとしても、被告製品の動作実験結果によれば、そのような制御が安定的に行われているとは認められない。したがって、被告製品は本件発明の本質的部分を備えておらず、均等第1要件(置換不可性・本質的部分の共通性)を満たさない。

(3) 争点3(間接侵害の成否)について

① 特許法101条1号(専用品間接侵害)
被告製品は、パラメータ設定を変更すれば本件特許権を侵害する態様になり得るとしても、現状のパラメータ設定のままで一定数販売され相応の市場シェアを獲得しており、実際の稼働に支障が生じているとも認められない。したがって、現状の設定による非侵害用途(「その他の用途」)が経済的・商業的・実用的に成立しているため、101条1号の専用品には該当しない。

② 特許法101条2号(不可欠品間接侵害)
パラメータの設定変更によって特許発明の実施品に転化し得る物について101条2号の間接侵害を認め得るためには、単に「変更される抽象的可能性」があるだけでは足らず、「実際にそのように変更される現実的蓋然性」があり、かつ「供給者がその蓋然性を認識・認容していること」を要する。
本件において、被控訴人が非侵害のパラメータ設定で輸入・販売しており、被控訴人自ら設定を変更し、あるいは顧客に対し変更を推奨・指示した事実等は一切窺われないため、上記蓋然性及び認識は認められず、101条2号の間接侵害も成立しない。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

1. パラメータ変更可能・ソフトウェア可変型製品における直接侵害・均等侵害の立証限界
機器の動作がパラメータ等のソフトウェア設定によって変動する製品において、単に特定の条件下で特許発明と類似の動作結果が生じたという実験事実のみでは、特許請求の範囲に規定された制御アルゴリズム(閾値判定構造等)を具現化していることの立証としては不十分である点が明確に示された。

2. 可変型製品に対する間接侵害(特許法101条1号・2号)の規範の明確化
設定変更により容易に侵害品へ転化し得る製品(マルチパラメータ製品等)についての重要な判例実務上の示唆を含む。

  • 1号(他用途性): 現状の設定値で製品が市場で流通・利用され一定のシェアを得ている実績があれば、たとえ潜在的に侵害設定への変更が可能であっても「経済的・商業的・実用的な他用途」の存在が肯定される。
  • 2号(蓋然性要件と認識要件): 簡易な手動操作で侵害物に転化できる物理的・構造的状況や競合関係が存在するという周辺事情のみでは足りず、製造・販売側による変更の奨励・指示等の「具体的・現実的な変更の蓋然性」および「その認識」が必要とされるという厳格な枠組みが再確認された。

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