1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
本件は、米国特許(US8048614、液浸露光を用いる半導体集積回路デバイスの製造方法に関する特許)の特許権者である原告(個人)が、被告ら(日本法人である被告JASMおよびその親会社である台湾法人被告TSMC)の製造・販売する半導体集積回路デバイスの製造方法が本件特許の技術的範囲に属し、本件特許権を侵害すると主張して、民法709条に基づき、被告らそれぞれに対し損害賠償金各80万円(一部請求)の支払を求めた事案である。
2. 判決の主文
1 本件各訴えのうち、被告TSMCに対する訴えを却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
3. 主な争点
- 争点1: 国際裁判管轄の有無(本案前の争点)
- 日本法人である被告JASMに対する管轄の有無
- 台湾法人である被告TSMCに対する管轄(民訴法3条の3第8号[不法行為地]、民訴法3条の6[併合請求・共同被告])の有無
- 争点2: 本件特許権侵害の有無および準拠法(本案の争点)
- 米国特許権の侵害を理由とする損害賠償請求の準拠法
- 被告JASMの製造方法による本件特許権の侵害成否(製造方法の特定)
- 争点3: 原告の損害およびその額
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
1. 争点1(国際裁判管轄の有無)について
- 被告JASMに対する管轄:
被告JASMは日本国内に本店を有する法人であるため、民訴法3条の2第3項に基づき、日本の裁判所に管轄権が認められる(被告JASM主張の特許属地主義等は上記判断を左右しない)。 - 被告TSMCに対する管轄:
- 民訴法3条の3第8号(不法行為):外国法人に対する不法行為管轄を肯定するには、被告が日本国内で行った行為により損害が生じた客観的事実関係の証明が必要である(最高裁平成13年6月8日第二小法廷判決参照)。本件では被告TSMCが日本国内で半導体デバイスを製造・販売したことや日本国内で侵害行為・損害を生じさせた客観的事実が証明されていない。
- 民訴法3条の6(併合請求等):原告の主張する被告両名の侵害行為は全く別個のものであり、「密接な関連」を認められず、民訴法38条前段の要件(権利義務の共通・同一の事実上及び法律上の原因)も充たさない。被告TSMCが被告JASMの親会社であるという事実のみでは上記要件の補充とならない。
2. 争点2(準拠法および本件特許権侵害の有無)について
- 準拠法:
被侵害利益が外国特許権(米国特許権)であっても、不法行為に基づく損害賠償請求権の存否は法の適用に関する通則法17条によるべきである(最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。被告JASMの加害行為の結果発生地(侵害行為が行われ権利侵害が生じた地)は日本であるため、日本法を準拠法とする。 - 特許権侵害の有無:
原告は、被告JASMの製造・販売するデバイスの回路寸法(28nm~20nm)を主張するのみで、被告JASMにおける具体的な製造方法を特定していない。したがって、主張自体が失当であり、本件特許権侵害は認められない(被告JASMに対する請求棄却)。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
- 外国特許権に基づく不法行為請求と準拠法:
被侵害利益が外国特許権(米国特許権)である渉外不法行為であっても、最高裁平成14年判決の定立した規範に基づき通則法17条を適用し、「加害行為の結果が発生した地」(本件では日本国内での製造販売等)の法(日本法)を準拠法と指定した実務の再確認である。 - 親会社・子会社関係と国際裁判管轄(民訴法3条の6):
管轄権のある日本法人(子会社)と管轄権のない外国法人(親会社)を共同被告として訴訟提起する場合、単に「親子会社関係にある」という事実のみでは民訴法3条の6(併合請求の管轄)や民訴法38条前段の共同訴訟要件を充たさず、外国法人に対する国際裁判管轄は認められないことを明確に示している。 - 方法特許侵害訴訟における「対象侵害行為の特定」:
製造方法の特許権侵害を主張する際、対象製品のスペック(半導体のプロセスノード・寸法等)を主張するだけでは足りず、相手方の「具体的にどの工程・製造方法」が特許発明の構成要件を充足しているかを特定して主張・立証しなければ失当(主張自体失当)とされる実務上の厳格な特定義務が改めて示されている。
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