【知財高裁 / 2026年06月30日】令和8年(ネ)第10016号 - 特許権侵害行為差止等請求控訴事件
1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
本件は、発明の名称を「箱型船」とする2つの特許(特許第6978797号[本件特許1]、特許第7005039号[本件特許2])に係る特許権を有する控訴人(原告・特許権者)が、被控訴人(被告)の取り扱う製品(被控訴人製品1及び2)が各発明の技術的範囲に属し、被控訴人の生産・販売等の行為が本件各特許権を侵害する旨主張して、特許法100条1項に基づく被控訴人製品の生産等の差止め、並びに不法行為に基づく損害賠償(一部請求として100万円及び遅延損害金)を求めた事案の控訴審である。
原審(東京地裁)は、被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠がない(または侵害品及び被控訴人の関与行為自体が特定されていない)として、控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴を提起した。
2. 判決の主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
3. 主な争点
- 争点1: 被控訴人製品・行為の特定および本件各発明の技術的範囲充足性(侵害の有無)
- 争点2: 特許法104条の2に基づく相手方の「具体的態様の明示義務」の有無および違反時の制裁適用の可否
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
当裁判所(知財高裁)は、控訴人の主張をすべて退け、控訴を棄却した。判断ロジックの骨子は以下のとおりである。
(1) 特許法104条の2(具体的態様の明示義務)の成否および被控訴人行為の特定について
控訴人は、被控訴人が具体的態様の明示義務(特許法104条の2)を怠っているため、控訴人主張の構成(侵害態様)をそのまま認定すべきであり、沖合操業という特殊性から過度な立証責任を果たすよう求めるのは不当である旨主張した。
しかし、特許法104条の2に基づき相手方が「自己の行為の具体的態様」を明らかにすべき義務を負うのは、前提として相手方による「自己の行為」自体が客観的証拠により特定されている場合に限られる。
本件において、控訴人が提出した写真や動画(甲12〜14)は、被控訴人のロゴマークが付された筐体が写っているもの等があるものの、被控訴人がこれを販売・設置したことや、どの部分が本件各発明の構成要件に対応するのかについて具体的な主張・立証がなされていない。また、他社銘板が存在するなど第三者の関与も否定できない。
したがって、被控訴人が明示義務を負うべき「自己の行為」自体が特定されておらず、同条に基づく明示義務違反の制裁を適用することはできない。
(2) 技術的範囲充足性の判断
控訴人が主張する構成を備える被控訴人製品が存在する(または被控訴人がこれを生産・関与した)と認めるに足りる証拠が存在しないため、そもそも技術的範囲に属するか否かを論ずる前提を欠く。
仮に控訴人提出の写真・動画(甲8、甲12〜14)の対象物が被控訴人製品であると仮定したとしても、構成要件との具体的な対応関係が証明されていないか、あるいはpH計等の主要な構成要件自体を欠いているため、本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
1. 特許法104条の2(具体的態様の明示義務)の起動要件の厳格性
本判決は、特許法104条の2の適用にあたり、原告側(特許権者)が「被告の具体的な侵害行為(対象製品や関与態様)」を客観的証拠によって一定程度特定することが不可欠であることを再確認した。被告側が否認・不知で応答している場合でも、被告の「自己の行為」が特定されていない段階では同条の明示義務は発生せず、立証責任の転換や制裁的認定は認められない。
2. 証拠収集が困難な現場・製品における立証実務上の留意点
洋上での操業や顧客による個別設置など、特許権者側で直接の観察・証拠収集が困難な現場であっても、裁判所は「撮影写真の提出」「第三者動画(説明者が推測で語るもの等)の提出」のみでは証明力を認めない厳格な姿勢を示した。実務上は、単なる外観写真や曖昧な動画に頼るのではなく、査証手続(特許法105条の2の2)の検討や、取引関係の客観的な裏付け(カタログ、納品書、第三者証言など)を事前に整えた上で訴訟提起を行う必要がある。
コメント
コメントを投稿